映画「パブリック 図書館の奇跡」:公共空間が守るべきものは

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(The Public)

 

 

 

大寒波に見舞われた冬の米国オハイオ州シンシナティ(中西部)を舞台に、「公立図書館」と「ホームレス」、という(ある意味で矛盾した)アメリカの代表名詞を巡る騒動を描く。

 

4月の緊急事態宣言以降、路上で生活する人を多く見かけるようになった。日本でも厳寒期におけるホームレスの凍死が珍しくなくなった昨今、公共機関の責任とは何かを考えさせる良作。米国では2009年のリーマン・ショックを経て起きたホームレスの増加と同時に、図書館の利用者が激増した。監督として自ら冴えない図書館員スチュアートを演じたエミリオ・エステベスは、新聞の投書記事を読んで「避難所としての図書館」という着想を得たという。

 

映画の冒頭では、厳寒期ですら貧しい人々に寒さをしのぐ場所を保障しない自治体と、実際に困って助けを求めてくる馴染みの住民たちの板挟みに否応なく引き込まれてゆく、地方公務員としてのスチュアートの日常が垣間見える。困っている人への共感は図書館関係者の仕事を増やし、図書館員のキャリアをも危うくする。何を守るべきか。スチュアートは決して正義感の塊ではない。そこがリアリティーを生んでいる。状況に巻き込まれ、流されながら、弱者の切り捨てを要求する政治家や組織の幹部に不器用にあらがう公務員の苦しい立場について考えさせられる。

 

本が大好きな図書館員たちの不思議な会話を聞きながら、アメリカ留学時代にお世話になった大学の図書館を思い出した。図書館だけはアメリカのシステムが素晴らしいと思う。その場に無い本は、全米中の大学から即座に探し出して無料で届けてくれる。「その本はありません」という答えは無い。どの本を読めば良いか迷ったときは、プロの司書が的確なアドバイスをくれる。遠くから送られて来た本を手にしながら、「この本はアリゾナから送られて来たのか」と嬉しい気持ちで本に押された蔵書印を眺めたものだった。そんな環境があるからこそ、緻密な学びと新しい発想が生まれるのだろう。

 

映画の結末には驚かされた。エステベス監督独特のユーモアのセンスだろうか。男性のホームレスばかりがストーリーの中心になっていたので、女性はいないの?という点は少し気になった(冒頭部分には登場するが、中盤以降は出て来ない)。原題は「公共たるもの(The public)」。この言葉には、もう一つの意味である「民衆」も重ねられている。